独りの条件 7


、こっちおいで」

湯上りの私に手招きして、仁王君はベットに招き入れてくれる。
毛布の中で包み込むように抱き締められて、久しぶりの感覚に涙が出そうになった。

「仁王君…。ごめんね、相談もせずに勝手に進路決めて」 
「その話はもういい。は悪くない」
「ううん。悪い。…でも、逃げたかった」

仁王君の胸に顔を押し当てる。
その大きな手のひらで何度も何度も髪をなでられながら
なんがあったんか理由だけでも話してくれんか、と言われて
自分でも呆れるようなみっともない言葉が溢れだした。


「…私ね、すごくすごく仁王君のことが好きなの。
  だから、仁王君が私を想ってくれてるのじゃ全然足りなかった。
  私が仁王君を想う気持ちばっかりがどんどん強くなってくのが辛かった…。
  それなのに、大学部に行ったら今よりもっと色んな女の子が仁王君のファンになる。
  その中に仁王君が新しく好きになってしまう人がいるかもしれないでしょ?
  それだったら私は私で、自分の道を見つけておいたほうが楽だと思って。
  仁王君への気持ちが大きすぎて苦しい今も、仁王君が離れていくかもしれない不安がある未来も、
  別れてしまえば消せるって…名案だと思ったの、本当に。
  他にもちゃんとした理由はあったけど、一番にはこれがあって
  遠く離れた製菓学校に決めてしまったんだ…ごめん」

話しながら、仁王君の気持ちを無視した自分のずるさに気付く。 本当に私はずるい。


「…馬鹿な真似したもんだ」

ぽつりと仁王君がつぶやいた。……さすがに、仁王君も怒ったに決まってる。
済まない気持ちでいっぱいで、言い返す言葉も出てこない。
顔をうずめてるせいで仁王君がどんな表情なのかわからないけど、きっと眉根を寄せてるはずだ。


「大事にしすぎて裏目に出るとは…俺もとんだヘマしたな」

  
何のことを言ってるんだろう? 

言葉の意味が掴めずにいると、仁王君が私の肩を掴んで一旦体を引き離して
まっすぐに視線をぶつけてきた。



、絶対にお前を遠くには行かせん。そういう理由なら、なおさら」

この1カ月間見てきたのとは、また全然違う顔つきの仁王君に戸惑った。
どうしたんだろう? さっきまであんなに優しい雰囲気だったのに…。

 
「…仁王君?」 
は俺がどんな気持ちか知っとるようで全然わかっとらん。
  この1ヶ月間無理させたから大人しく寝るつもりやったけど…そういうことなら話は別」

そう低く囁くと、仁王君は噛み付くようにキスをしてきた。

これまではそっと唇に触れるだけのキスしかしてくれなかったのに、
唇も舌も食べ尽くすみたいに激しく口付けられる。

びっくりして仁王君のシャツを掴むと、その手を簡単に拘束されてしまう。
私をベットに押さえつけるように、重ねられる仁王君の唇はとても熱い。


息が苦しくなって思わず私が顔を背けると、ようやく唇は解放されたけど
初めての荒々しいキスに、胸が高鳴りすぎて私は声も出せない。

こんな仁王君、初めてだ…

仰向けになった私の頭の両横に仁王君は手をついて、覆いかぶさってきた。
ゆっくり顔を下ろしてきて、私の左の耳を舐め上げる。
焦らすように甘噛みしたり舌を差し入れたりして、まるで私の反応を楽しんでるような…

…ううん、楽しんでるんじゃない。 これが本当の仁王君の気持ちなんだ。


耳元で仁王君が囁いた。


「俺がどんな気持ちでのことを好きなのか…抱いて教えてやる。
  優しくなんてできんし、するつもりもない。
  …想ってもらえる気持ちが足りんで苦しいのは、お前じゃなくて俺の方」

俺をこんな風にさせたのも、全部全部のせい。


顔をずらして見上げた仁王君の顔は少し悲しげに歪んでる。
仁王君も私と同じような気持ちでいてくれたんなら、どうされても構わない。

まだ涙のあとが少し残る仁王君の頬に手を伸ばした。


「優しくなんてしなくていい。…教えて」



剥ぎ取るように着ていたシャツを脱がされて、胸元に感じる仁王君の舌の感触に私は覚悟を決めた。

仁王君が私をどんな風に愛してくれてるのか、それを感じたい。



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