美しき設計図 6




ダイエットをしていると、ある一定のところで体重が落ちなくなる。
停滞期と、いうらしい。
観月君に教えてもらって、初めてそういう期間があることを知った。




2ヶ月が過ぎたある日、きちんと観月君のくれた計画書どおりにしているのに
夜に計ったら、減るどころか400グラム増えていた。

400グラム増の数字を示して一向に変わる気配のないデジタル表示を、
穴が開くほど睨みつけてもやっぱり400グラム増。

どうして!?なんで!?

ただでさえ最近はなかなか体重が落ちなくて焦っていたのに
観月君にノートを見せる週末目前になって増加だなんて。

わけがわからない。こんなことじゃ、絶対観月君をがっかりさせちゃう。
嘘の体重なんか記入したくないけど、でもこんな数字も書きたくない。

もう、どうしたらいいんだろう…

気が付くと、涙がこぼれていた。
他の人から見れば「たった何百グラム増えただけで泣くなんて」って馬鹿にされるかもしれない。
でもその何百グラムを減らすために、私は沢山の我慢を積み重ねてきた。観月君の、力も借りて…

なのに、それが一晩で消えてしまったんだから泣くなっていう方が無理だ。

体重計から降りると、その場にしゃがみこんで声をあげて泣いてしまう。
情けないやら、悔しいやら…。

もう、観月君に「今週も頑張りましたね」って、笑いかけてもらえない。きっと渋い顔をされる。
これ以上は、いくらやっても痩せれないってことなの?



と、その時携帯電話が鳴った。このクラッシックの着信音は観月君専用だ。
本当なら気付かないふりをしていたいけど、でも観月君にはたとえ電話越しにだって居留守は通じない。

深呼吸をして息を整えて、通話ボタンを押した。


「も、もしもし…」
『やっと出ましたか。どうしたんです?声に元気がないですね』

何か悩みがあるなら逐一僕に話すよう前にも言ったはずですが?
そう優しく言われて、堪えてた涙がまた溢れ出した。

こういう時にそんな優しい声をするなんてタイミングが悪すぎる。
安心させられてしまう。安心したらますます涙が止まらない…観月君の前では泣かないって決めてたのに。

「…み、みづ、き、くん……あ、あの、ね…」
……大丈夫ですか?』

意外なことに、私が電話越しに泣き出してまともに言葉が続かなくなっても
観月君は辛抱強く待ってくれてた。
だからなんとか話だけでもちゃんとしなきゃと思って、思いつくまま言葉にして伝える。

「観月君…私、ちゃんと食事制限も運動も言われてた通りにやってるの。
  ほんとに、嘘じゃない。でも、観月君をがっかりさせたくないのに…」
『体重が落ちなくなったか、もしくは増えたんでしょう?』
「そうなの!」

もうどうしていいのかわからない、と子供じみた泣き声になる私に観月君は苦笑しながら言った。

『んー…僕の予想通りです、待ちわびましたよ。じゃあ…、今から僕の寮まで来てください』
「……い、今から?」
『ええ、今から。まだ電車もバスもあるでしょう?僕、待ってますから』

私の返事も聞かずに、電話は切られてしまった。

どうせ明日か明後日のうちには記録ノートを見せに行くつもりだった。それが早まっただけだけど…。


さっきのは見間違いで、もとの数字に戻っていることを期待しながらもう一度、そっと体重計に乗ってみる。

やっぱり400グラム増。

はぁ、と溜息をついて、バックにお財布とノートと携帯を入れるとそのまま重たい足で家を出た。




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