新月の日に 11




首筋に噛み付くようなキスをしながら、岳人は器用に私の服を脱がせる。
てっきりボタンを外すのにも手間取ると思っていたのに
馴れた様子でこそないけど、でも一枚一枚を休むことなく脱がせていく。

私の方も出来るだけ頑張って岳人の制服を脱がせていたつもりだったけど
それよりも早く、気が付くと私の方が先に裸にされてしまっていて
それからは岳人の愛撫を受けとめるだけで精一杯だった。




初めてさらした私の体を、隅々まで確認するように岳人は細い指先で撫で回す。

腕、ふくらはぎ、太もも、腰、背中。それから暖かい息が胸にかかった。


「胸も…女は性感帯なんだよな。やべえ、ちょっと…緊張する」

そう言いながら赤い舌を唇からのぞかせて、恐る恐る岳人は胸の先に舌で触れると
皮膚の感触を調べるように舌先を丁寧に這わせる。
でも、全身を隈なく触られている間に私の体はもう熱を帯びていたから
そんな優しい刺激じゃ足りない。
もっと、もっと強くしてほしい。

私の胸に顔を寄せる岳人の、後頭部をそっと押して私がそれを催促すると
岳人は「も案外エロい」と嬉しそうに言って、それから思いっきり胸の先に唇を寄せた。
暖かく湿った中に含まれるのを感じると、本当に岳人からそういうことをされてるんだと実感してしまって
ますます奥の方が熱くなる。


「…なんかこういうのって俺…ガキみてえじゃねえ?」
「ううん…そんなこと、ない」
「まあ別にガキでもいいけど、今は…こんなことできるなら…」

そう言いながら軽く歯を立てられて、背中が軽く反りそうになる。
童貞だなんて嘘じゃないかと何度も言いそうになってしまう。

岳人の髪をくしゃくしゃに撫でていなかったらとてもじゃないけど、正気なんて保てない。

「…が、岳人…ストップ」
「あ、痛かったか」
「違う……逆。…ちょっとその…良すぎて」
「もしかして『感じる』…ってやつ?へえ……やらしいな、意外とも」

からかい混じりの言葉を返されて、さすがにそれは不本意だと思った。

「その、女だけじゃないんだよ。男の人だって…感じるらしいし」
「…何が?」
「胸。多分、嘘じゃないと思う……試させて」


軽く体を起こした岳人の肩に手を置いて、そのまま反転するように岳人の体を下に敷いた。
細身だけど綺麗に薄く筋肉のついた胸に顔を寄せて、そっと唇を押し当てると
岳人が体をビクっと震わせて、私の腕を掴んでいた手に力が入る。

ということは…やっぱり感じるってことみたい。
さっきまで岳人にされていたのと同じように舌でつつきながら舐め上げると
岳人は小さくうめき声にも似た溜息を漏らす。
必死で声を出すまいと、私が強弱をつけて吸い付くたびに岳人は唇を噛んでいるようだ。


感じているなら、聴かせてほしい。私が今までに聴いたことのない岳人の声を知りたい。


でも正面きってそう言えば、余計に岳人は恥ずかしがって唇を閉ざしてしまうだろう。
それなら…岳人には不本意かもしれないけど、ごめんねと心の中で謝ってから
胸に舌を這わせつつ、気付かれないよう下へ手を伸ばして岳人のそれに触れてみた。


不意をつかれた驚きで唇がゆるんでしまったらしく
私が触れた手で下から上へ撫で上げると、岳人ははっきりと声を漏らした。


溜息の中に、明らかな乱れを混じらせたその声。なんて可愛い声で啼くんだろう。


喘ぎ声って女が出す声だけにつける名前だと思ってたけど…岳人の感じる声は、まさにそれだ。
私の体を欲情に向かって疼かせる。
反応してるのは私だけじゃない。岳人のものも、私の手の中でどんどん硬くなっていってるみたい…

そう思いながら岳人の胸に口を寄せたまま、撫でる手も止めずに岳人を見上げたら
しっかりと眉間に皺を寄せた岳人の不機嫌な目が向けられた。


「おい…そりゃ…は、反則だろ。反則…する、な」
「……セックスにルールは無い、と思うんだけど…」
「…そーかよ。そんじゃ俺だって…もう、遠慮…しねえからな」


言い終わると同時に、岳人はガバっと私の体をシーツに押し付けると、唇を塞ぐように荒いキスをした。
そのままどんどん下へ口付けの位置を下げていって、再び胸に辿り着くと
さっきとは全く違う、もう何も目に入らないかのように数え切れないくらいの箇所をきつく吸う。

きっと、私の胸に沢山の鬱血の痕が散っているだろうと思った。



そうしながら私の足の間に体をすべりこませて、少しずつ、少しずつ、私の足を開かせていく。

胸からやっと離れた岳人の手が、私の体のラインをなぞりながら太ももまできたとき
するりと内側へ入り込んできた。
そっと、もうとっくに乱れてしまっている私の中心に指で触れて岳人はニヤっと笑った顔を寄せる。


「これ…濡れてるってやつだろ?かなり濡れてんぜ。…大丈夫かよ」
「…岳人のせいでしょ」
「さあ?俺じゃなくて…がエロいだけだろ。へへ…やっぱエロいでやんの」

その言い方に思わず私が顔を背けると、岳人は悪戯っぽく笑った。


「ごめんごめん、拗ねんなって……あぁ…俺、超幸せかも」

こんな風になんのも、が俺を好きだからだもんな。


そう言いながら、岳人はそこに少しずつ指を挿し込ませてきて、
指が付け根まで入ってしまうとゆっくりと動かして、私を焦らすように反応を見る。


「中の方が、もっと……熱い。まじで好きなんだな、は俺のこと」


岳人のかすれた囁きが、与えられる緩い刺激が、もどかしくてたまらない。

私が声を出すまいと唇を噛んでいるのに、その上から強引にキスをして
唇をこじ開けてくるせいで、とめどなく溜息が漏れてしまう。


「うん……岳人…すっごく好き」
「…それ、もう一回言って」
「本当に、岳人が好き。だから…すっごく感じる」

 
そうすると岳人は一旦顔を離して、でも中へ入れた指はそのままに
猫のような目をめいいっぱい見開いて、私が喘ぐ様を上から見下ろしてきた。
初めてのくせに、少しは照れて遠慮してくれるとかすればいいのに…
ますます蜜を押し出す岳人の指の動きは動くのをやめてくれない。


「すっげぇ。じゃないみてえ。…」
「うん…岳人のものに、もっとしてほしい」
「するさ。でも…もうちょっとが濡れるとこ見たい」

『もうちょっと』って…。その『ちょっと』を私は我慢できない。
このままだと岳人を受け容れる前に、私だけ先に達してしまう。
だから岳人を見上げて、目で訴えた。

きてほしい。お願いだから、もう。

岳人はそれに気付いてか、指をそっと引き抜くと
私の膝裏を押して、ギリギリまで岳人のために私の体を開かせる。


「…なぁ。さっきから思ってたけどよ。今日の、なんかいい匂いがする」
「あぁ…香水…ちょっとだけ、つけてる…気に入ってくれたの?」
「気に入ったもなにも…」

もう、俺やばい。

そう呟いたと同時に、ぐっと岳人が私の中に押し込まれた。
久しぶりの感覚と思いもよらない質量に、にぶい圧迫感を感じたけど、それは最初だけだった。




ゆっくりと岳人が抜き差しを繰り返すほどに、私の中は岳人を求めていって
岳人自身は、どんどん奥を突いてくる。

その度に快感のあまり背中がのけぞって、もう溢れる声を止められない。
岳人の体は初めての戸惑いなんかあるとは思えないほど、私を激しく、でも優しく組み敷き続ける。


やっと一つになれて、私の体から心へ、どんどん何かが満ちていくような気がした。

声なんか我慢する気になれないほど、岳人と繋がれてるこの時間に、私は夢中だ。

岳人は、グっと私の奥へ入れたものを体全体で押すと
その体勢から引き抜かずに動きを止めたまま、私の名を呼んだ。
 

…。もう、あの男に…絶対、俺に黙って、会ったりすんなよ」
「……うん。岳人こそ、私以外の女の人に…触らせないで。
  岳人を抱き締めるのも抱き締めてもらえるのも、私だけであってほしい」
「そんなの当たり前…全部、にだけ」


そっと私の頬に手をあてて、一つキスをすると
それだけで岳人と繋がった部分に震えが走って、体の熱に火を注ぐ。

もう限界かも。


そう思って岳人の首に手を回すと、岳人は今まで見てきた中で
一番男の人の顔で、唇の端を上げてみせた。

「いいぜ、こいよ。いかせてやるから」
「…お願い」






きっとその瞬間、岳人の肩に爪を立ててしまったと思う。
















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